今日のお菓子は三題噺
[「狸」「ぶらんこ」「方位磁石」](1/1)

 方位磁石を頼りに林道を歩いていると、立派な枝に吊られたぶらんこで無邪気に遊んでいる動物が目に入った。小熊かと思ったが、ふさふさとした太く短い尻尾や、毛並みを見ると狸に見える。

「やあ」

 僕は思わず声をかけてしまった。二日も一人で林道を歩いたことによる寂しさからか、それとも好奇心からか。

 狸らしき動物が振り返る。狸だ、やはり狸だ。

「珍しいね、人間がここにくるなんて」

 狸はそう言うと、小さい手で縄を握りながらぶらんこに乗り、座った。両足を前に突き出すと、ぬいぐるみのようだ。

「ちょいと、この先の村に用があってね」
「この先の村というと……ああ、エヌ村だね?」
「違うよ、エス村だ」
「エス村? そうか、村は二つあったんだ」
「そうさ、じゃなきゃ方位磁石を持ち込んだりしないよ」

 そう言って僕は右手の方位磁石を見せた。すると、狸は食い入るようにそれを見た。

「なるほど。それがあれば迷うことはないもんね。やっぱり人間って賢いや」
「狸は何もなくても道に迷わないじゃないか」
「匂いでわかるからね。でも、たまに匂いが効かない時もある。その方位磁石、ちょっと見せておくれよ」

 僕は狸に近づき、方位磁石を見せてやった。仕組みや使い方を教えると、狸は真剣な顔で耳を傾ける。僕らが真剣になっていると、突然背後から草をかき分ける音がした。驚いて振り返るが、山猫が出てきただけだった。

「大丈夫だ、ただの山猫だ」

 そう言って顔を戻したが、狸はびっくりしてもう逃げ去っていた。地面に、方位磁石がぽつんと落ちている。僕はきょろきょろと狸を探してはみたが、やはりいない。勉強熱心な賢い狸と一緒に歩けば、半日の道のりくらい退屈しないのに。

 僕は方位磁石を頼りに歩き始めた。目標のエス村に向かって。しかし、半日歩いて辿り着いたのはエヌ村だった。

「嘘をつかないでください、僕は確かに方位磁石を頼りに、エス村に!」
「方位磁石? 狂ったんじゃないのか?」

 村人に言われ、僕は方位磁石を取り出す。すると、方位磁石は笑い始めた。高笑いだった。

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