今日のお菓子は三題噺
[「扇風機」「砂」「日常」](1/1)

「時々怖くなるんだ」

彼は不意にそう言った。諦めの悪い子供のように、太陽は熱線を大地に送り込んでいた。蝉はまだ鳴いていた。彼らは知らないようだ、夏が終わりかけてることを。

「何が怖いの?」と、私は尋ねた。扇風機の首が回り、無機的な風が彼を捉える。でも彼の髪は短いから風で揺れることはない。

「大学に戻りたくないんだ」
「大学が嫌?」
「嫌いってわけじゃないんだ。でも今は嫌いかな」
「何故嫌い?」
「君と離ればなれになりたくないんだ。夏休みが終われば東京に戻らなくちゃならない。君のいない日常になんか戻りたくないんだ」

彼は東京の大学に在籍していて、私は地元の大学に在籍している。だから夏休みが終われば彼は東京に戻ってしまう。

夏の終わりは人を憂鬱にさせる。日曜日を惜しむように、夏を惜しむのだ。

「東京に戻ったら、僕たちの関係は砂のように消えてしまう気がするんだ。それがたまらなく怖い」
「大丈夫よ。手紙を書くし、電話もする」
「大丈夫かな?」
「大丈夫。悲観的にならないで」

彼は微笑んだ。ちょっとは安心できたようだ。

相変わらず蝉は鳴き続けていた。夏の終わりはちょっぴり寂しい。

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